『ハンニバルの象つかい』 ハンス・バウマン

図書館。第二次ポエニ戦争ハンニバルのイタリア遠征(俗に言うハンニバルのアルプス越え)を題材にとった児童歴史小説。戦争をテーマとしているため、児童文学にしては重い作品。主人公の少年、カルタゴ人の象使い、ギリシア人の従軍書記…と多彩な人物で史実を重層的に描いている。


本書のハンニバル像は独特。軍事的英雄…という輝かしい表のイメージより、権謀術策の人間にして、人々を戦争へと駆り立てるカリスマ的指導者*1…というダーティーな裏の顔*2を強調したもの。それがダーティー一辺倒にならないのは、"竜の夢"と毒の小瓶のエピソードで見せる彼の人間的弱さ。彼もまた(戦争という魔物に)駆り立てられる人間のひとりだったワケで。


象使いが主人公のため、(古代の)象の生態も詳しい。
動物小説的な要素もあって、その点でも興味深い。


ハンニバルの象つかい』
ハンス・バウマン(著)/大塚勇三(訳)
岩波書店、1966年、絶版・品切、ISBN:4001108208

*1:ここにヒトラーナチスの影を見てしまうのは深読みのし過ぎか。

*2:ハンニバルに対するマイナスイメージは史料の偏見という要素もあるが。