『ミュータント』 ルイス・パジェット


『ミュータント』
ルイス・パジェット(著)/浅倉久志(訳)
早川書房(ハヤカワSFシリーズ3075)、1964年、絶版・品切



核戦争後に生を受けた"ボールディ"(まるぼうず)。
毛髪も眉毛もない文字通り"まるぼうず"の彼らには、
生まれつきの特殊な能力…読心とテレパシー…があった。
突然変異(ミュータント)として忌まれ、迫害されながらも、
普通人との和合を夢見るボールディたちであったが、
しかし、それを良しとしない一派も存在した…。


SF。ミュータントテーマ。特殊な能力をもった人間(少数派)がいて、普通人(多数派)から迫害されている…って構図、で、ミュータントの中には普通人蔑視思想に毒された狂信的な一派*1がいて、融和派と対立している…てな感じで、X-MENのパクリみたいな〜と言わない言わない、こちらの方が元祖(元祖中の元祖はA.E.ヴァン・ヴォクト『スラン』だろうが)。


『スラン』がスリリングな娯楽作品(叙事詩)だとすると、こっちはよりディテール面にこだわった作品(抒情詩)というところ。読心とテレパシーの描写は独特の工夫がこらされている。面白いのは、特殊能力が万能ではなく、制約やマイナス面もともなうということ。心理的ショックを受けたり、秘密が漏れそうに…そうした設定を生かした虚虚実実の駆け引きもある。個々人よりも集団を重視するボールディのメンタリティ描写*2も面白い。いまの視点で読むと、サイバーパンクやネット世界を思わせるよ〜な要素*3も。


ただ連作短編集ということで、全体の構成が緩いのは残念。登場人物も違うし、時代も舞台(核戦争後のアメリカってことで共通点はありますけど)も違う…それでいて一篇一篇の独立性が強いわけでもない。ただ、全話読み通して分かる枠物語のオチ(エピローグ)はじ〜んと来るものがありますけどね。これは連作モノでこそ出る醍醐味って気がする。


ちなみに著者のルイス・パジェットは、
ヘンリー・カットナー&C・L・ムーアの共同ペンネーム。

*1:本書では<パラノイド>と呼ばれている。

*2:みんなでひとつ…「魂の集い」と呼ばれるボールディの集会によくあらわされている。集団の維持のために異端(パラノイド)を抹殺する冷酷な面もあるが、同時に和合を志向する温かさもある。

*3:繋がる…ということが繰り返し強調されていて、これがネットを連想させる。ネット世代がこれを読むと、ああ分かる…って感じじゃないかな。