ブリテン:歌劇「グローリアーナ」(フィルム・バージョン)
歌劇「グローリアーナ」 Gloriana 〜全3幕(英語)〜
ベンジャミン・ブリテン作曲
W・プローマー台本(リットン・ストレイチー原作)
- エリザベス1世:ジョゼフィーン・バーストウ
- エセックス伯爵:トム・ランドル
- エセックス伯爵夫人:エマー・マギロウェイ
- ロード・マウントジョイ:デイヴィッド・エリス
- リッチ夫人(エセックス伯爵の妹):スザンナ・グランヴィル
- サー・ロバート・セシル:エリック・ロバーツ
- サー・ウォルター・ローリー:クライヴ・ベイリー…ほか出演
イングリッシュ・ノーザン・シンフォニア/オペラ・ノース合唱団
ポール・ダニエル(指揮)
フィリダ・ロイド(演出・監督)
2000年制作(1999年オペラ・ノース公演に基づくフィルム)
開演前。道具の搬入、行き交う裏方、出番を待つ出演者。カメラは楽屋の一画に入る。衣装と鬘の前の女優。舞台がはじまる。意を決したかのように衣装をつけていく女優。舞台裏から奥舞台に、輿に。そして高らかなファンファーレが響き渡り、グローリアーナ(処女王エリザベス)は入場する。
…という感じではじまるのは、ベンジャミン・ブリテンのオペラ「グローリアーナ」(全3幕、英語、初演1953年)のオペラ映画。1999年オペラ・ノース公演をもとに制作されたもので、エリザベス(ジョゼフィーン・バーストウ)を舞台から舞台裏までカメラが追い、寵臣エセックス伯ロバート・デヴルー(トム・ランドル)との老いらくの恋、その悲劇的結末…をパパラッチするという趣向(笑)。
公演中の劇場の舞台裏・楽屋なんか、そうそう覗けるワケでもないから、ホッと表情を崩したり、ダベっている歌手の自然な表情、あるいは開演前のテンテコマイの様子など、それだけでも面白いのだが、バーストウの素早い変わり身と舞台〜舞台裏の往復…現実と虚構を軽々と飛び越えていく、その趣向自体も面白い。だんだんバーストウが本物のエリザベスに見えてくる。そのナマナマしさが、オペラ映画特有の"作った"感をうまく消している。
キャストは…やはりイチにバーストウ。盛りは過ぎているし、声も苦しいが、それでもバーストウ。凄まじい貫禄。老醜をさらけ出した…よ〜は、若いツバメにゾッコンで嫌味な独身婆…女王を演じきり、一種の崇高ささえ出してみせる演技力。声がキンキンだろうが、オバアチャンだろうが、いいものはいい。エセックス伯役のトム・ランドルは艶のある美声。もっとスマートであれば申し分無かったと思う(な〜んか山賊かゴロツキっぽいのよね…)。
フィリダ・ロイドの演出は史劇としての歴史性を衣装やシェークスピア劇の舞台のようなセットで表現しながら、象徴的な小道具と細かい芝居で"王冠と恋"の葛藤という心理的なテーマを真正面から描くもの。女王を囲う格子状の枠は王権という牢獄、それを破るエセックスは女王の"生身の女"としての心の琴線に触れるが、分をわきまえぬ人間として危険視。黄金の騎馬像(戦場の栄誉)に釣られ体よく遠ざけられるも、戦場で全てを失い、愛しの女王に会おうと帳を破れば、そこにはすっぴんの老女がいた。こんなオペラ作ったブリテンもブリテンなら、ハードな絵にしてみせた演出家さんも凄いなあ…。
(2007年5月5日、DVD視聴)
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- 『エリザベスとエセックス―王冠と恋』中公文庫、ISBN:4122034841 ※原作
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