カエサルの魔剣/ヴァレリオ・マンフレディ/文春文庫


カエサルの魔剣 (文春文庫)

カエサルの魔剣』
ヴァレリオ・マンフレディ(著)、二宮磬(訳)
文藝春秋(文春文庫)
2007年
ISBN:9784167705480



「ラウェンナに入城すると、オドウァカルはアウグストゥルスを廃位したが、彼の幼さを憐れみ、また見目よい子であったので、生かしておくことを許し、彼に6000ソリディの収入を与え、カンパニアに送って親族と共に住まわせた。」(Anon. Val., VIII, 38――訳者注)
――チェンバーズ(編)『ローマ帝国の没落』創文社37頁

ローマ帝国は本当に亡びたのであろうか。たしかにロムルス・アウグストゥルス――若輩ゆえに同時代人によって小アウグストゥス、つまりアウグストゥルスとよばれた――は476年に廃位された(後述)が、それは、その頃イタリアのローマ軍隊、だが実体はゲルマン人から成る傭兵隊の、そのリーダー格であったオドワケルによって、兵士たちの土地割当ての要求をみとめない実力者の父オレステースが殺される巻添えをくらってであった。もっともこの若僧、助命されたうえ、カンパニアに居所を与えられて、年金六千ソリドゥスをはむ年金生活者として余生をおくることができたとは、冥加につきるラッキーボーイであったといわなければならない。
――渡辺金一『中世ローマ帝国岩波新書41頁
図書館。西暦476年、西ローマ最後の皇帝ロムルス・アウグストゥルスアウグストゥス)は、ゲルマン人傭兵隊長オドアケルの叛乱により廃位、幽閉される。が、彼を主と仰ぐ七人の男女の手引きにより脱出。廃帝はあてどない逃亡の旅に出る。イタリア、ゲルマニア(ドイツ)、ガリア(フランス)。逃避行の終着点は、帝国の北の果て、戦乱うずまくブリタニア(イギリス)だった…。


滅亡前夜の西ローマ帝国を舞台にした歴史冒険小説。勃興期よりも衰退期のローマ史(滅びのロマン!)にココロひかれる(『ローマ人の物語』よりも『ローマ帝国衰亡史』派)不健全なワタクシにとっては、西暦476年西ローマ滅亡、ラストエンペラー(最後の皇帝)ロムルス・アウグストゥルスアウグストゥス)…というだけで辛抱たまらん歴史設定。運命の荒波に必死に立ち向かう少年廃帝。様々な思惑でその逃亡を助けながら、ひとつのチーム(軍団)としてまとまっていく七人のつわもの(老家庭教師、元軍団兵士、黒人の巨漢、女海賊…「七人の侍」!)。彼らを執拗に追う獰猛な蛮族たち。南国のカプリ島から霧のブリタニアまで帝国西半を股にかけた大スケールの逃亡劇が展開されます。


ネタバレになってしまうので、結末は詳しく書きませんが、ブリタニアということで、あの伝説と繋がってきます。で、あの剣は×××××××。西洋版「義経ジンギスカン伝説」みたいなオチ。史実からすると随所に突っ込みどころはあるんですが、史料の空隙をついた「嘘」「if」の作り方が上手い(笑)。


考証も堅実だし、キャラクターの色づけも悪くなく、緩急もあってハラハラと読ませる内容ですが、惜しむらくは主人公アウレリウス(リーダー格の兵士、脛傷持ち)のキャラがイマイチ弱いことかな。ワタクシ的にはむしろロムルス君寄りで読んでました。当初後ろ向きながらも旅の中で逞しくなりラストで男を見せる…とまあ典型的な成長型で、彼の方が主人公として"らしい"気がします。あと残念だったのは、アルプス越え以降の描写が駆け足で精彩に欠けること。イタリアの外だと筆がノらなかったのだろうか>作者。コリン・ファース(アウレリウス)主演で映画化もされているようですが予告編を見るとB級の予感がするのがイヤ〜ンな感じ。出来はさておき、日本公開するのだろうか?