ミスト(2007年/洋画)


■ミスト(2007年/アメリカ)
監督・脚本:フランク・ダラボン
原作:スティーヴン・キング(「霧」『骸骨乗組員』所収)
出演:トーマス・ジェーン(デヴィッド・ドレイトン)、マーシャ・ゲイ・ハーデン(カーモディ夫人)、トビー・ジョーンズ(オリー)、ローリー・ホールデン(アマンダ)ほか
参照→映画「ミスト」公式サイト



のどかな田舎町を襲う激しい嵐、うってかわって翌日の晴天
デヴィッド(主人公)は息子と共に街のスーパーに買出しに出る
いつもの日常…それを破る警報、そして立ち込める謎の霧
スーパー内に閉じ込められてしまうデヴィッドたち買い物客
そして霧の中の「何か」の襲撃!…霧の中に響く犠牲者たちの悲鳴
が、それは、本当の恐怖の序章(はじまり)に過ぎなかった…


モダン・ホラーの巨匠スティーヴン・キングの傑作中篇小説「霧」を原作とした(待望の)映画化。監督は「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」などキング作品の映像化でお馴染みのフランク・ダラボン監督。


原作はキング作品の中でも五指に入る好きな作品、それだけに構えて見たわけなのだが、一言で述べると…まあ、よかった


まあ…という留保がついてしまうのが原作厨(苦笑)。まず原作の雰囲気を忠実に再現していたことに+(プラス)、かつ目障りにならない範囲で「霧の中の奴ら」を視覚化していたことに+、トビー・ジョーンズとカーモディ夫人役の人の演技に+、あえて原作を踏み出したラスト15分に+…てなところ。


トビー・ジョーンズは、以前の処女王エリザベス1世の伝記ドラマ(NOTケイト・ブランシェット)で、おおっ出来るゾ、こやつぅ!みたいな感じで印象に残っていたので注目していたが、やたらと存在感がある上に、主役を喰う活躍と本作でもクセモノでございました(苦笑)。この人え〜わ。


お宗旨が嵩じてついには教祖(!)にまで上りつめてしまうカーモディ夫人は、敵役ながらもインパクトのあるキャラクターだが、マーシャ・ゲイ・ハーデンの大熱演はしっかりキャラクターに息を吹き込んでいた。ほかの方の演技は…遺憾ながら、あまり印象に残らなかったかなぁ…むぅぅぅ。


原作では仄めかされるだけの「霧」の真相(アロー・ヘッド計画)がフォローされ(まあ、ぶっちゃけB級映画設定を紙上でどう迫真的に読ませるか…というのがキング小説なんで、なくても良かったのかもしれないけれど)、ゲテモノクリーチャー総動員(具体的な描写よりも、霧の中に潜む得体のしれない何か…という感じが出ていたのは良かったし、ラスト15分の巨大なアレがノッシノッシと歩いてくる様子も良かった)で視覚的にも盛り上げていましたが、一番怖いのは人間のこころ…という基本を外ずさなかったのはGJ。


ただ不満点も少なからずあって、極限状況下の人間ドラマ、心理葛藤…に焦点を絞ったのは原作からして正解だけど、個々の登場人物の掘り下げがイマイチというか若干浅いために、細かな「揺れ」がしっかり見えてこないのがマイナス…ここがやはり「小説」「映画」の違いなんだろうか? 時間に限りのある映像メディアでこれを完璧にしろというのも酷だけど。ストア内の人間関係の溝を視覚的に強調出来れば…ねえ。もっと分かりやすかったような。


あと原作尊重なのか、描写を台詞に頼りすぎる傾向もマイナス。細かい状況が掴みにくいのも、台詞で語らせる部分が多すぎるからではないか。


あと「霧」の見せ方がイマイチ物足りない。たしかに原作の眼目は、超自然の「霧」に閉ざされてしまった人間の「心の霧」ではあるけど、それでも、せっかくの映画・映像メディアなんだから、クリーチャーによるショッカー(驚かし)だけじゃ無しに、不気味な「霧」そのものの恐怖を、映像表現で魅力的に見せてくれればなぁ…と贅沢を言いたくなってしまう(苦笑)。


ここからは、ネタバレになるので反転↓



ラスト15分はあって良かったと思う。その反面、見ていて一番ひっかかったところでもある。一番はやはり、主人公(デヴィッド)の「最終選択」。あれで息子との「約束」を守ったことになるのかよ、とか、早まり過ぎ、とか、直前の葛藤が薄すぎる、とか細かな突っ込みどころは措いといて、ああいう選択がスパッと出てくるところに、「自分の意志」「自己決定」を極限まで重視するアメリカ社会のあり方の「強さ」と「恐ろしさ」を同時に感じる。


結果的には短慮、早まった選択であり、さらに主人公の行動全てが無意味だったのかもしれない…と言わんばかりの皮肉なラストが痛烈に炸裂する(カウンターパンチ!) 「人間らしい死」=人間中心主義の独善へのアンチ・テーゼ? プチランボー化した主人公=偏執化したマイホーム主義への風刺? それとも、霧が晴れていたら戦場だった…世界情勢に無関心(霧の中)な内向きアメリカへの批判? いろいろ深読みは出来るし、監督(と原作者キング)のメッセージがあるのかもしれないが、それでも痛い、やりすぎだ…。


ラストの後味の悪さは賛否両論あると思うし、ガツ〜ンと打ちのめされて鬱入りますけど、原作読者&キングファンとしちゃ…やっぱ見てよかったなぁと感じた。フツーにゲテモノホラーとしても怖がらせてもくれますし(触手、蟲に耐性無い人はご用心…)、(キング作品としては)筋立てもシンプルなので、原作を知らなくても入り込みやすいんじゃないかと思う。オススメ
(2008年6月1日、渋東シネタワー)



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・『ミスト』@フランク・ダラボン監督の感想
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(よろず感想文ブログ『独立幻野党』)
・ミスト
http://d.hatena.ne.jp/yomoyomo/20080602/mist
(YAMDAS現更新履歴)
フランク・ダラボン『ミスト』
http://d.hatena.ne.jp/naoya_fujita/20080602/1212386961
(the deconstruKction of right)
・ミスト - 心境を描写する霧
http://d.hatena.ne.jp/bokuno-nou/20080602/1212420170
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