源氏物語に魅せられた男―アーサー・ウェイリー伝/宮本昭三郎


源氏物語に魅せられた男―アーサー・ウェイリー伝』
宮本昭三郎(著)
新潮社(新潮選書)、1993年、絶版・品切
ISBN:4106004348


紫式部源氏物語』The Tale of Genjiのポピュラーな英訳(完全ではないが、完訳に近い)をはじめて世に送り出し、その世界文学としての評価に多大なる貢献をした稀代のオリエンタリスト(東洋学者)にして学匠詩人でもあったアーサー・ウェイリー(Arthur David Waley)の評伝。源氏物語1000年という節目の年に、カレの英訳をさらに日本語訳(重訳)したゲンジが平凡社から刊行されていたりするので、タイムリーといえばタイムリーなのか?


源氏との絡みよりもむしろ、オリエンタリスト(中国学者)としての面とか、ブルームズベリーグループ絡みの知識人というところに興味あるんですけど。その面でこの本は正解。単に源氏の翻訳作業を追っかけるだけでなく、彼が活躍した20世紀初頭の知的フンイキとか、彼が影響を受けた文学思潮の流れなんかもよく分かって、彼のThe Tale of Genjiが、プルーストヴァージニア・ウルフジョイスなど20世紀初頭の文学のモダニズムの潮流の中で、「世界文学」として受容されていったんだな…ということがよくわかります。


もちろんウェイリー本人の人間像もよく伝わってくる(著者は晩年のウェイリーと面識があったそうです)し、オリエンタリストとしての多彩な仕事(源氏、枕草子、和歌、能、論語漢詩西遊記、ほか専門著作)ぶりもよく分かるし、これでもうちょい中身が整理されていれば完璧か。でもよく書いたって感じの力作ですよね。こんな手頃で濃い内容の本が絶版とは…。



Autumn wind rises ; white clouds fly.
Grass and trees wither ; the geese fly south.
Orchids all in bloom, chrysanthemums smell sweet.
I think of lovely lady, nor can forget!
(本書95頁)

In private life, couteous, in public life, diligent, in relationships, loyal.
(本書219頁)

On the shore of Nawa
The smoke of the saltburners,
When evening comes,
Failing to get across,
Trails over the mountain.
(本書119頁)

At the Court of an Emperor (he lived it matters not when) there was among the many gentlewomen of the Wardrobe and Chamber one, who though she was not of very high rank was favoured far beyond all the rest…
――The Tale of Genji
(本書135頁)


本書に引用されているウェイリーの「作品」を引いてみましたが、ワタクシのような英語初心者でも、言葉の詩的な響きが伝わってきます。


ウェイリー版 源氏物語〈1〉 (平凡社ライブラリー) 源氏物語 2 ウェイリー版 (2) (平凡社ライブラリー む 4-2) The Noh Plays of Japan (タトルクラシックス )