『人が見たら蛙に化れ』 村田喜代子 (朝日文庫版)

ヒトもモノも下手物の骨董物語。


朝日新聞に連載されていた村田喜代子の骨董小説*1
時々読んでいたが、まとめて読み通すのはこれがはじめて。
ただのウンチク小説ではなく、小説として面白い。


骨董商、ハタ師、掘り師…この業界に関わる三組の男女がこの物語の狂言回し。この三組いずれも超名品とかお宝には無縁な方々で、よって話も、割れ物の人形を直して売りつけ〜の、他所サマの不幸につけこんで遺品を安く買い叩き〜の、盗掘した陶片を繋ぎ合わせてリサイクルだの…まことにみみっちい(誉めてます!)。あげくの果てはゼニゼニゼニ(ナニワ金融道!)。詐欺、窃盗傷害、返品トラブルという業界の暗部までも顔を出すワケで、壺を弄りつつ美しいワァァァ〜などとのたまう美しい「骨董」のイメージはそこにはない。


そこがいい…と言うとヒネクレモノの戯言のように取られるけど、元々「骨董趣味」なるものに、そう大仰な思い入れもないし、しょせん「古物蒐集オタク」ではないかという思いもある*2。故に、青山二郎とか小林秀雄といった具眼の士の「美しい」骨董の世界(一級品の世界)に違和感を感じてしまうわけで、こういったカタチで、骨董の「いやらしさ」にこだわってくれたのは嬉しい。欲を言えばコレクターの嫌らしさも描いてくれれば完璧だったのにという気がしますが、さすがにそればかりは無理か…。


あと三組の男女の絡みもねっとりと描写されていて、この点でも読み応えがある。よくよく考えてみると、この三組のカップル、みんな所帯持ちの匂いが希薄…やはり骨董が「子供」なんでしょうか?

人が見たら蛙に化れ (朝日文庫)

人が見たら蛙に化れ (朝日文庫)

*1:骨董エッセイ(自慢話)の類は多いが、「骨董」小説なるものはあまり見かけない気がする。イチオシはエッセイに近いが幸田露伴の「骨董」(『幻談・観画談 他三篇』所収)。小品ながら名品。西洋アンティークだと、骨董趣味ただようM・R・ジェイムズの怪談などいかがだろうか。

*2:やはり前掲の幸田露伴「骨董」のイメージが強いので。掌編ながらニセ物作り、店と客の化かしあい、玩物喪志の罪深さと、それでもヤメられない中毒性…本書とも相通じるダーティだが面白い「骨董」世界を語りつくした傑作である。骨董品の値段=「高慢税」という定義に苦笑。