なまくら/吉橋通夫/講談社(YA!ENTERTAINMENT)


なまくら (YA!ENTERTAINMENT)

『なまくら』
吉橋通夫(著)、佐藤真紀子(画)
講談社(YA!ENTERTAINMENT)
2005年
ISBN:4062693542


幕末から明治へと移り行く京都、激動の歴史の陰で、生きる"たたかい"に苦闘する少年たちの姿を描く七篇の短篇をおさめる短篇集。ラインナップを見ると、あさのあつこ『No.6』を筆頭に、もろイマドキのヤング・アダルトっぽいお洒落なタイトルが並ぶYA!ENTERTAINMENTシリーズとしては異色な時代モノ。ある意味、児童文学っぽい児童文学という感じ(このシリーズの中で見ると)。


このシリーズのための書き下ろしというワケでもなく、バラつきはあるのですが、京都が舞台、幕末から明治という時代設定…という共通点はあります。一番重要な共通点は、どれも働く庶民の子供たちが主役(勤労少年物語…)ということ。「つ」の字(鮮魚の運び屋)、なまくら(石切り工)、灰(灰買い)、チョボイチ(舟ひき)、車引き(人力車夫)、赤い番がさ(古着行商)、どろん(煉瓦職人)…てな感じで、ヘタに描くと単純な労働賛歌になるか、ただの歴史絵巻で終わるのだが、ひとりひとりのさまざまな悩み、葛藤、誘惑(前科者までいる…)の描写を交えて、一篇一篇物語としてのアクセントをつけている。


あと京都というロケーションの使い方が上手いなぁ…と。たしかに幕末・明治の激動の舞台でもありますが(「「つ」の字」の池田屋事件)そういう歴史の重大トピックの京都でなく、名所の京都でもなく、「日常の京都」というロケーションの使い方が秀逸で、たとえば「「つ」の字」は桂川から中京の錦小路への鮮魚運搬を描いた話だけど、内陸の京都では鮮魚は貴重だったこと、冷凍運搬の無い時代、イキのいい魚をとどけるということは一分一秒を争う競争だったこと、伏見→東寺(京都の南玄関)→東本願寺烏丸通四条通→錦小路(錦市場)という地理…などがうまく伝わってくる。他の作品もそうだけど、京都の風物をうまく取り込んだ「京都」小説といえるかも。あと京都ことばもね。ネイティヴじゃないから、これが正しいのかどうかはよく知らないけど…味付としてはGJ。


一篇あげるとすれば、「「つ」の字」かな…スピーディーかつスリリングな展開と池田屋事件の皮肉さに、最後の〆もいい秀作。あとは"ご一新"による転落で人力車夫となった少年と幼馴染み少女の"運命の再会"を描くナニコレ浪花節?と突っ込みを入れつつもホロリとなった「車引き」、石の上にも三年という諺が思い浮かぶ(イタイよ…堪え性の無い俺のハート)表題作、盗みの罪の恐ろしさをギリギリと胃が痛むような心理描写でとらえる「灰」もオススメしたい。



【収録作品】
「つ」の字/なまくら/灰/チョボイチ/車引き/赤い番がさ/どろん