壊れた風景 象/別役実/ハヤカワ演劇文庫
別役実の戯曲二篇。とりとめも無いやりとりの中に浮かび上がる人間の姿…そのおかしみ、その崇高。道に迷った母娘の会話からはじまる「壊れた風景」。誰が用意したのかも知れないピクニックの場を拝借して他人同士でドンチャン騒ぎ…と笑劇さながらの展開をたどりながら、〆で一気に虚空に放り出す。メメント・モリ(死を忘れるな)という言葉を思い出した。恐ろしいのは「死」ではない、「死」を見ようとすらしないことである…そう問いかけているかのようだ。
「象」は原爆の傷跡をさらすことに執着する男と、それに反発する甥の対立の中にうかびあがる「原爆」の悲劇をえぐる作品。「もう僕達は何もしてはいけないんです。何をしてもいけないんですよ。何かをするってことは、とても悪いことなんです」という甥の台詞は、悲しいぐらいに現代的である…。