驚異の戦争――古代の生物化学兵器/E・メイヤー/講談社文庫


驚異の戦争〈古代の生物化学兵器〉 (講談社文庫)

『驚異の戦争――古代の生物化学兵器
エイドリアン・メイヤー(著)、竹内さなみ(訳)
講談社講談社文庫)
2006年
ISBN:4062754096


大蛇ヒュドラの猛毒を武器として使った英雄ヘラクレス。魔法の火で恋敵を焼き殺した魔女メディア。戦争の道具として使われた毒蛇、毒蠍。戦局を左右した疫病発生の秘密、ビザンツ帝国を外敵から守った新兵器…神話、伝承、史書の記述から浮かび上がる古典古代の生物化学兵器の実像とは…?


キワモノっぽいイラストとタイトルだが、内容は(一部を除き)いたって真面目。主にギリシア・ローマの古典古代を中心とした古代技術史の本。原題にGreek Fire, Poison Arrows, and Scorpion Bombsギリシャ火、毒矢、蠍爆弾)とあるように、毒物・化学物質の効用は古代においても、ある程度は知られており、経験則に基づく兵器への転用も行われていた…ということです。


生物化学兵器と言っても、考えようによってはローテク。決して近現代の独占物ではないわけで、古代でもチャンバラ専門で戦っていたわけでなく、このような「汚い」兵器も使われたという可能性は考慮してもいい。


でも、神話の記述に妄想をたくましくして、やれ細菌爆弾、やれ音波兵器…と飛躍してしまうところは、さすがにトンデモ…と言われても仕方が無い。神話をただのオトギ話ととらえずに、歴史的事実の反映と仮定するのは、歴史研究のひとつのアプローチだったりするので、大目に見てもいいと思うけど。


毒に生き毒に死んだ英雄ヘラクレスの悲劇に、「両刃の剣」としての生物化学兵器の危うさの象徴を見、現代への警告と説く〆は道徳的でよろしい。


翻訳は…結構頑張っていると思うけど、カタイなぁ。カウティリヤ『アルタ・シャーストラ』は『実利論』のタイトルで邦訳があったと思う。古典の引用がやたらと多いだけに、出典を明示した原注の一部ぐらいは残して欲しかったけど、地図、文献表、索引を残してくれただけでもヨシということか?