読書メモ(2009年5月その3)
『ブラウン神父』ブック/井上ひさし(編)/春秋社
- 作者: 井上ひさし
- 出版社/メーカー: 春秋社
- 発売日: 1986/10
- メディア: 単行本
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ジョン・マーティン画集/大滝啓裕(解説)/トレヴィル
ジョン・マーティン画集 (ピナコテーカ・トレヴィル・シリーズ)
- 作者: 大滝啓裕
- 出版社/メーカー: トレヴィル
- 発売日: 1995/09
- メディア: 単行本
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探偵小説の哲学/ジークフリート・クラカウアー/法政大学出版局
- 作者: ジークフリートクラカウアー,Siegfried Kracauer,福本義憲
- 出版社/メーカー: 法政大学出版局
- 発売日: 2005/01/01
- メディア: 単行本
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解説では探偵小説論の古典みたいな扱いをしているが、執筆時期(1925年?)的にはそうでも、公刊が後(1979年)では、あまり意味が無いのでは? こういう批評、評論は世間に出されないと意味ないわけだし。内容にしても、切り口は面白いが、"哲学"を云々したがるスタイルには少々ゲンナリする。
ハドソン・リヴァー派画集/人見伸子(解説)/トレヴィル
ハドソン・リヴァー派画集 (ピナコテーカ・トレヴィル・シリーズ)
- 出版社/メーカー: トレヴィル
- 発売日: 1996/07
- メディア: ハードカバー
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このシリーズはデジデリオとかジョン・マーティンとか、ほかでは見られないレアな画家をフォローしているわけだが、にしても80〜90年代の幻想文学、幻想絵画ブーム(澁澤龍彦とか荒俣宏とかが演出した)があったといえ、現在から考えてみると、よく出たな〜というぐらいマイナーなラインナップだ。
京都文具探訪/ナカムラユキ/アノニマスタジオ
- 作者: ナカムラユキ
- 出版社/メーカー: アノニマスタジオ
- 発売日: 2007/11/07
- メディア: 単行本
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現代政治学入門(講談社学術文庫)/バーナード・クリック
- 作者: バーナード・クリック,添谷育志,金田耕一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/07/11
- メディア: 文庫
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冒頭の明快かつ人を喰った政治学の定義に参った…。
政治学とは、社会全体に影響をあたえるような利害と価値をめぐって生じる紛争についての研究であり、また、どうすればこの紛争を調停することができるかについての研究である。それを研究したからといって、「なにもかもが入り組んで哀しい世の仕組み」[オマル・ハイヤーム『ルバイヤート』]を正すことは期待できないにしても、この世での生活を改善するのに非常に有効な事柄を学ぶことにはなるだろう。 (本書13頁)
本書は、ブレア政権のアドバイザーでもあった(リベラル右派?)英国の大物政治学者が、大学などの高等教育機関向けに書きおろした政治学の入門教科書だが、政治学の教科書ときいて我々が連想するような無味乾燥さも、あるいはスカスカなアンチョコ本の安易さも無くて、よく分かる上に、読んでいて凄く面白い…という本。政治学の本で、これぐらい面白い本は読んだこと無いな。
合意形成のための妥協としての政治、雑多なものからひとつのものを生み出すプロセスとしての政治…歴史の経験知に鍛え上げられたイギリス政治と政治学のコクを感じさせる内容なのだが、マジメ一点張りじゃなくて、上述のような大人のユーモア(英国ユーモア)を感じさせる叙述そのものも魅力なんだよね〜。
子どものサッカーの審判をした経験を語りながら、政治制度について説明するくだりにはくっくっくっと笑いをこらえてしまうな。
子どもたちはわたしのいうことにしたがったが、それは、そうしなければゲームが流れてしまうというきわめて功利的な理由からである。つまり、そうしなければ、かれらはいわばホッブズ的な自然状態、アナーキーな状態に置かれることになるわけである。そこで、とにもかくにもサッカーをするためには、ルールの理解がどんなに怪しげな審判だとしても、かれらには審判が必要だったのである。 (本書134〜135頁)
絵の言葉(講談社学術文庫)/小松左京、高階秀爾
- 作者: 小松左京,高階秀爾
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1976/09
- メディア: 文庫
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ふつう、こういう組み合わせだと、専門知識を持っているほうが主導権を握ってしまって、もう片方が受身に拝聴する(先生→生徒)という展開になることが多いんですが、あきらかに専門外の小松左京が次々に鋭いサジェスチョンを投げかけて、丁々発止の白熱したやり取りが繰り広げられる…すごいなぁ。
西洋美術や学芸の根底にあるロジック…法則、秩序、数学が、ふたりのやり取りから分かりやすいカタチで浮かび上がってくる、その過程はとてもスリリングなんですが、対する日本美術が靄につつまれたまま…なのは致し方ないか。
お菓子帖(朝日文庫)/綱島理友/朝日新聞社
- 作者: 綱島理友
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 1995/04
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ブラウン神父(集英社文庫)/G.K.チェスタートン
- 作者: G.K.チェスタートン,Gilbert Keith Chesterton,二宮馨
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1997/08/01
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個人的には「マーン城の喪主」かな。こういうカタチで読み直してみると印象深い。罪と赦しというテーマが前面に出され、神父が"探偵"である以前にローマン・カトリックの聖職者なんだな、とあらためて再確認する。解説はかなり親切丁寧で、ブラウン神父モノの入門書としては悪くない一冊。
飛ぶ星/ペンドラゴン一族の滅亡/ムーン・クレセントの奇跡/マーン城の喪主/古書の呪い/ドニントン事件
作家の家―創作の現場を訪ねて/西村書店
- 作者: フランチェスカプレモリ=ドルーレ,Francesca Premoli‐Droulers,Marguerite Duras,Erica Lennard,鹿島茂,博多かおる
- 出版社/メーカー: 西村書店
- 発売日: 2009/02/01
- メディア: 大型本
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う〜ん、ワタクシが求めていた(予想していた)ものとは、多少違っていたようだ。あくまで見たいのは、作家の創作の現場の"ナマのカタチ"であったのだが、もう文学史となってしまった過去の作家、文豪となると、もう愛好家向けの記念碑、記念物と化してしまって、ナマナマしいアウラみたいなものは消えてしまっているらしい。現在生きてバリバリ仕事している作家の家じゃないと、創作活動してますという、現場感みたいなものは匂ってこないのだろうか?
人選や構成に首を傾げるところもありますが、文学写真集としてはまあまあだと思います。お宅拝見めいた覗き見趣味からいえば、やはりダヌンツィオとカルロ・ドッシの超ゴージャスな邸宅!!!が見どころでしょうかねぇ。前者はともかく後者は文学者としての知名度に?をつけたいところですが、自作の館は文句ナシの傑作(笑)。コクトーの家も彼らしいですね。三島由紀夫と澁澤龍彦の家を足したような内装です。こっちの方が先かもしれんですけど。
でも、個人的にはブルームズベリーのご両人、ヴィタ・サクヴィル=ウェストとヴァージニア・ウルフが(ワタクシ的には)イチ押し。前者はシシングハースト庭園&館で、塔の中の書斎って、なんか憧れるな〜。ウルフのモンクス・ハウスは田舎の隠者の草庵めいたこじんまりとした感じが、いかにもいい。
▼作家一覧
マルグリット・デュラス(仏)/カーレン・ブリクセン(デンマーク)/ジャン・コクトー(仏)/ガブリエーレ・ダヌンツィオ(伊)/カルロ・ドッシ(伊)/ロレンス・ダレル(英)/ウィリアム・フォークナー(米)/ジャン・ジオノ(仏)/クヌット・ハムスン(ノルウェー)/アーネスト・ヘミングウェイ(米)/ヘルマン・ヘッセ(独)/セルマ・ラーゲルレーヴ(スウェーデン)。ジェゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサ(伊)/ピエール・ロティ(仏)/アルベルト・モラヴィア(伊)/ヴィタ・サクヴィル=ウェスト(英)/ディラン・トーマス(英)/マーク・トウェイン(米)/ヴァージニア・ウルフ(英)/ウィリアム・バトラー・イェイツ(アイルランド)/マルグリット・ユルスナール(仏)
黙示録論(ちくま学芸文庫)/D・H・ロレンス、福田恆存(訳)
- 作者: D・H ロレンス,福田恆存
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2004/12/09
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ロレンスの愛読者というわけでも、福田恆存の格別なファンというわけでもなく、単に『ヨハネ黙示録』に対するミーハー的な興味から、この論に辿りついて読んだに過ぎないが、とても面白かった(興味深く読んだ)。ロレンスの小説は全然興味をひかれないが、『古典アメリカ文学研究』(これもロレンス作ということを意識せず読んだ)は面白かった記憶がある…相性いい?
訳者が筑摩書房版前書(本書では「後書」に収録)でことわっているように、これはキリスト教批判というよりは、聖書とその解釈によって歪められていったキリスト教批判…つまり教会批判という感じがする。彼にとってイエスとそのサークルがやっていた頃の原始キリスト教はプリミティブ(原始的)なるが故に肯定すべきもので、近代批判と繋がってくるんだろうね。
まあ、原始キリスト教がロレンスの想定するようなプリミティブなものだったかはさておき、本書のメインテーマである黙示録批判。「おそらく、聖書中もっとも嫌悪すべき篇はなにかといえば、一応、それこそ黙示録であると断じてさしつかえはあるまい」(本書33頁)、「しかしアポカリプスはごく幼少のころからずっと現在に至るまで、本能的に私の性に合わなかったのだ」(本書35頁)…と全否定でぼろ糞けなして、それがいかにルサンチマンに満ちていて、選民思想で、悪趣味かつ鼻もちならないかを詳細に説いている一方で、そのシンボリズム(象徴性)やコスモロジー(宇宙観)にうかがえる古代思想の名残りにウットリ…というところもあって、一筋縄にはいかんですね、ロレンスさん。
これだけの嫌悪と反発の裏側には、やはり、こういう感情を身近に見、聞きしていたという近親憎悪めいた感情があるのでは…と下衆の勘ぐり。
白い僧院の殺人(創元推理文庫)/カーター・ディクスン
- 作者: カーター・ディクスン,厚木淳
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1977/10/20
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The White Priory Muders(1934)。H・M(ヘンリー・メルヴェール卿)シリーズの一作。"白い僧院"…とありますが、おそらく宗教改革で没収されて貴族の館に改装されてしまった元修道院のことだろうと思いますので、作中に修道士とか聖職者が出てくるということはありません。聖なる場所での殺人…みたいなニュアンスは元からないわけです(昔、タイトルで誤解していた…)。まあチャールズ二世(その放埓さで知られる王政復古期の英国王)が愛人との逢引に利用したラブホテルもどきな建物(別館)があるぐらいですからね。俗も俗…。
自然(雪)による密室という不可能犯罪トリックで、当然のことながら思い浮かぶであろう足跡細工トリックが出されては消え、出されては消え…という推理の過程はスリリングかつユーモラス。ギミック好きの俺でもさすがにそういう安易な手は使わないぜという著者の哄笑がきこえてきそうな感じ(笑)。
カー(カーター・ディクスン)作品にしてはめずらしく、オカルティズムも残虐趣味もなく(歴史趣味は多少アリ…)、ロマンス色の濃い作品。ただ、探偵役のヘンリー・メルヴェール卿はイマイチ好きになれないんだよな〜。