『家』 ロバート・マラスコ


格安の条件でひと夏の別荘を借りた一家。
だが、契約には奇妙な条件がついていた。
それは「家」の老母の食事の世話だった…。
やがて起こる怪異の数々と、「家」の正体とは?


図書館。あの『シャイニング』の元ネタのひとつとされる米国のモダンホラー*1。訳者あとがきにもあるように、シャーリー・ジャクソン『山荘綺談』の強い影響が感じられる作品で、「家」が怪異の中心になること、女性を主役にした心理サスペンスという点は似ている。相違点は、家族…という要素を持ち込んだことだろうか(ここは『シャイニング』に継承発展)。


(ネタバレになるのであまり詳しく書かないけど)よ〜するにあのヒトは、イケニエを要求するおっかない太古の地母神みたいな存在で、「家」はその神殿である…というのが基本アイデアらしい*2。そんな場所に踏み込んだ家族の物語の主人公として、一児の母親を持ってきたのは卓見。本末転倒の義務感でだんだんオカシクなっていくおか〜さんは必見。最後にドンと来るおと〜さんと子供の最期も怖い。犠牲者が古い写真に加わるという趣向も怖い*3


ただこの作品の怖さはストレートにクルものではなくて、行間から読み取って味わっていく態のもので、そこがちょっと難かな。展開もスロー。直接的なアクション無しに雰囲気だけでもたせる…にしては作品自体の力(構成、描写力、キャラクター造形*4などなど)がイマイチ。アイデアや着想は一流だけど、作品としてはニ、三流…そこが何とも残念なところ*5


『家』
ロバート・マラスコ(著)/小倉多加志(訳)
早川書房(ハヤカワ文庫NV)、1987年、絶版・品切、ISBN:4150404739

*1:ダン・カーティス監督「家」(1976)として映画化されている。未見。

*2:原題はBurnt Offerings。聖書にあるイケニエを火で焼く祭儀"燔祭"のことだ…とあとがきにある。

*3:似たようなアイデアが、キューブリック版「シャイニング」(1980)の結末でも使われている(原作『シャイニング』には無いオリジナル)。コレを読んだのか、映画を見たのか、それとも偶然の一致?

*4:せっかくの家族テーマもあまり効果的には使われていなかった。安っぽい泣かせでもいいから、少しは身に迫るようなモノが欲しい。

*5:流麗な地の文と洒脱な会話とヒロインの圧倒的(にアレな)心理描写で戦慄をかきたてた『山荘綺談』、キャラクターをじっくり書き込み巧みな展開で怪異へと導いていった『シャイニング』などと比べると…やはり。