読書メモ(2009年2月その2)

密教の水源をみる―空海・中国・インド (講談社文庫)/松本清張

原著は1984年刊行。TV番組のドキュメンタリーか何かで、密教のルーツを求めて松本清張がブラリ中国・印度…という感じの企画だったんでしょうか? いや、前フリ、まえがき、あとがきなんて一切ナシなんで本書の成立事情がいまひとつ"読めない"ワケですけど。旅行記+参考文献の引用に終始する内容にはちょっとガッカリ。あくまで旅行記に毛が生えた程度のものなので…。

暮しの眼鏡 (中公文庫)/花森安治中央公論新社

暮しの眼鏡 (中公文庫)

暮しの眼鏡 (中公文庫)

暮しの手帖」初代編集長のエッセイ集。原著は1953年刊。カナカナ表記の多用と漫文チックなスタイル(のちの昭和軽薄体につながるものがあるような…)にとまどうが、これは戦前・戦後あたりの流行りだったのだろうか。坂口安吾花田清輝もこんなスタイルでエッセイを書いていたように記憶する。



 たとえ吹けば飛ぶような家であろうと、真実お互いが、そこに寄りそうて暮す、いじらしい場所であってみれば、すこしでも住みよく考えようという、血の通うあたたかさ、三万かかるところを、千円でも二千円でも安く建つようにチエをしぼってくれる親切さ、キザな芸術家でなくてもいいから、僕らの暮しのために、生涯をささげてくれる建築家。
 建築家というものは、本来そういうひとであって欲しいのです。いつもセンタク槽を忘れないひとであってほしいのです。無理ですか。
(「求ム貸家但当方権利金無シ」本書37頁)


戦後の住宅難と建築事情を皮肉ったエッセイの一節。
いまもって通用してしまうというのが情けない。

都市国家の誕生 (世界史リブレット)/前田徹/山川出版社

都市国家の誕生 (世界史リブレット)

都市国家の誕生 (世界史リブレット)

古代メソポタミア史の入門概説書。前半は文明の誕生からアケメネス朝ペルシャまでを王朝変遷史に重点をおいてさらっと概説。後半は著者の専門のシュメール史を掘り下げた内容になっています。最新の研究内容を踏まえた手頃な内容だと言えるでしょう。ただ、読み応えという点ではイマイチか?

とべたら本こ山中恒理論社

とべたら本こ (理論社名作の愛蔵版)

とべたら本こ (理論社名作の愛蔵版)

1.吉川カズオの物語
2.山田カズオの物語
3.高橋カズオの物語

三つの家族を渡り歩いた虚言癖のあるワルガキ少年の遍歴物語
…と、要約すれば、こうまとめられるのかな。


カズオ(本作の主人公)は輪廻転生するわけでも三重人格なわけでもなく、大金が転がり込んで家庭崩壊の危機に直面したために家出(吉川カズオの物語)、たまたま巡りあった老婆の家に潜りこむのだが、そこでも遺産をめぐるトラブルに巻き込まれ出奔(山田カズオの物語)、元の家にも戻れずウロウロしていたら、とある資産家の息子として迎えられる(高橋カズオの物語)。


著者あとがきを読むと、当時の批評でボロクソぶっ叩かれたみたいなことを書いていますけど、全編に横溢するアンチ家庭主義、アンチ家族主義みたいなテイストがネックになったんでしょうかね? 本作をディケンズオリバー・ツイスト』などの流れをくむビルドゥングスロマン、教養遍歴小説ととらえれば、むしろ古典的な作品とも読めるような気がするんだけど…。

脚本(シナリオ)通りにはいかない!/君塚良一キネマ旬報社

脚本(シナリオ)通りにはいかない!

脚本(シナリオ)通りにはいかない!

脚本家という視点からの映画レビュー集。対象となる映画作品の選択はそれほどマニアックというほどでもなく、刊行当時の話題作やメジャーな作品が多いですが、記述の端々には脚本家ならではの視線がうかがえてフーンとなる。

男色(なんしょく)の景色―いはねばこそあれ/丹尾安典/新潮社

男色(なんしょく)の景色―いはねばこそあれ

男色(なんしょく)の景色―いはねばこそあれ

日本の芸術文化の秘められた部分…伏流として流れる「男色」という性向についての考察・エッセイ集。日本男色事始、仏教芸術と男色の関係から、三島文学、「薔薇族」までと、上古から近現代まで広範囲にわたる内容っス。


よく書いたな…とまず思い、よく出したな…と次に思う。類書が皆無だったというわけでもなく、本書もまた先行の著作・研究(その最たるものといえば、やはり岩田準一『本朝男色考』だろうか)に多くを負うものであることは、著者自身が繰り返し述べているとおり。でも、一般読者向け(その筋の方ややおい好きの女性読者オンリーではなく)に、興味本位でもマニフェストでもない自然体のカタチで、大手の出版社が出すということに隔世の感あり。


著者本人がはじめにコトワリ書きを入れているように、喰いつきやすいところから喰いついていけるゆる〜い構成と内容で、字面ほどにはお堅いものではないし、実証的な論考というもんでもありません。あくまでエッセイ。内容的には…既知のものが大半かな。断片的に散らばっている情報を、日本文化の中の「男色」というテーマで、要領よくまとめたことは買うけど。ひじょうに面白く書けているし、分かりやすいので入門書としてはオススメ。

青島と山東半島 (旅名人ブックス)/荻野純一(文)、今井卓(写真)/日経BP企画

旅名人ブックス97 青島と山東半島

旅名人ブックス97 青島と山東半島

ドイツの租借地としてドイツ風の近代植民都市に改造され、その美しい町並みがいまなお残る港町・青島を中心とした中国・山東半島東部の旅行ガイド。青島、労山、琅邪台、煙台、蓬莱水城、威海、成山頭…と主要な観光スポットを押さえている。山東半島だけをピックアップした本は少ないので貴重。

古代オリエントの生活 生活の世界歴史1 (河出文庫)/河出書房新社

生活の世界歴史〈1〉古代オリエントの生活 (河出文庫)

生活の世界歴史〈1〉古代オリエントの生活 (河出文庫)

生活文化という切り口から世界の歴史を見る。前半はメソポタミア(現在のイラク・イラン)。後半はエジプト。多少古くはなっていますが、豊富な図版とわかりやすい内容でお手頃。両文明の舞台となるメソポタミア、エジプトの風土についても解説されているので、はじめの一書としてオススメ。

映画読本・清水宏/フィルムアート社

映画読本・清水宏―即興するポエジー、蘇る「超映画伝説」

映画読本・清水宏―即興するポエジー、蘇る「超映画伝説」

風の中の子供」、「按摩と女」、「次郎物語」で知られ、松竹時代の作品がDVD化されるなど、再評価されつつある清水宏監督についてのムック本。エッセイ、シナリオなどの本人の文章、関係者のインタビュー、フィルモグラフィー、年譜と多角的な内容。「蜂の巣の子供たち」、「その後の蜂の巣の子供たち」、「大仏さまと子供たち」は独立プロ作品なんですねぇ。というか、戦後の作品はぜんぶ松竹以外で撮ったから、今回のDVD化でも出ないのか…。

向田邦子と昭和の東京 (新潮新書)/川本三郎

向田邦子と昭和の東京 (新潮新書)

向田邦子と昭和の東京 (新潮新書)

言葉、食卓、父、仕事、家庭、東京
…六つのキーワードから向田文学の世界に迫る。入門書としてはいい本みたいな〜。皮肉でナシに。この人の昭和ノスタルジー節にはウンザリさせられるけど、平易な文章と絶妙のバランス感覚で、手引きとしてはすぐれたものをコンスタントに出していることは確か。でも、「川本三郎の金太郎アメ(笑)」と高島俊男にならって揶揄してみたい誘惑にかられることも確かである。

レトロなつかしダイアリー/佐々木ルリ子/河出書房新社

レトロなつかしダイアリー

レトロなつかしダイアリー

レトログッズのビジュアルムック本。こういう主義主張も懐古詠歎もウンチクもなく、ただバッと並べてキャプションをつけただけのカタログ本っていいですね。ウムを言わさず引き込まれる魅力があります。東京タワー見物はともかく、江の島旅行は?って感じでしたが「おもいでぽろぽろ」なのか?

もっと!これがワタシたちの小説ベストセレクション70/マッグガーデン

もっと!これがワタシたちの小説ベストセレクション70

もっと!これがワタシたちの小説ベストセレクション70

腐女子向け活字ガイド第二弾。第一弾とくらべると、やや選書内容が安直というかイマイチかな〜。いかにも…という本が多いのが興ざめ。もっと珍しいものとか、俺が考えつかないような本が並んでないとツマランですよ。