読書メモ(2009年3月その1)

アレクサンドロス大王東征を掘る(NHKブックス)/エドヴァルド・ルトヴェラゼ

アレクサンドロス大王東征を掘る―誰も知らなかった足跡と真実 (NHKブックス)

アレクサンドロス大王東征を掘る―誰も知らなかった足跡と真実 (NHKブックス)

西洋史アレクサンドロス大王の東征、その中央アジア戦役の戦場と遠征路を考証した本。著者はウズベキスタン歴史学者アレクサンドロス研究はアリアノスなどの古典資料をベースにした欧米の研究が今もって主流なのですが、よくよく考えてみれば遠征のルートとなったのは西アジア中央アジア。なのに文献史料の限界もあって、現地視点で遠征をとらえるという試みはあまり日本に紹介されてないんですよね。それを補う貴重な文献。

ボールペンとえんぴつのこと/宇井野京子/木楽舎

ボールペンとえんぴつのこと

ボールペンとえんぴつのこと

銀座の文房具店「五十音」女性店主のエッセイ集。文房具に対する男性マニアと女性マニアの感性には違いがあるのでは…著者の指摘だけど、確かにそうかもな〜とエッセイを読んでいるとそう思う。男がモノとそれに対するウンチクへの執着に終始してしまうのに対し、女性の方は、どこか自然体。

推理作家の発想工房/南川三治郎文藝春秋

推理作家の発想工房

推理作家の発想工房

海外(英米仏)のミステリー作家の仕事場を写真家が電撃訪問、写真インタビューしていくというムチャ企画。顔ぶれがとにかく凄い! グリーン、ハイスミス、アルレー、ダール、マクベイン、ブロンジーニ、フリーマントル、ル・カレ…インタビューの内容も興味深いが、やはり圧巻なのは、作家の個性が如実にあらわれた仕事場をうつす写真図版そのものと言えよう…。

ブームはどう始まりどう終わるのか (岩波アクティブ新書)/中川右介

ブームはどう始まりどう終わるのか (岩波アクティブ新書)

ブームはどう始まりどう終わるのか (岩波アクティブ新書)

当事者としてかかわっていたクラシックカメラブームの分析を通して、ブームというものの盛衰プロセスを論じる。教祖・カリスマが必要、しぼむのはちょっとしたきっかけ、マスコミが取り上げる頃には陳腐化、新規参入とビジネス化の行き過ぎで悪い方に変質する…当事者ならではの指摘が続く。

日記に中世を読む/五味文彦(編)/吉川弘文館

日記に中世を読む

日記に中世を読む

編者も含めて11人の執筆者による歴史論文集。日本中世の「日記」(王朝日記文学ではなくて、主に公家の残した漢文日記)がテーマ。これは入門者向きとしてはややハードルが高いかな。かといって専門家向けとしては、やや総花的すぎる気もするし、全体テーマも"日記を読む"以外に見えにくい。

花咲か (少年少女創作文学)/岩崎京子/偕成社

花咲か (少年少女創作文学)

花咲か (少年少女創作文学)

見こまれて江戸の植木職人(植源)に弟子入りすることになった少年・常七。厳しい修行、別れと出会い、やがて一人前の職人になった常七はキク作りブームに浮かれる世相をよそに、桜の木を植えることに情熱をそそぐ…。


これこそ歴史小説!!! 江戸の園芸というマイナーなテーマをしっかり描きこむだけでなく、ひとりの少年の成長小説(教養小説)としての醍醐味にも富む。主人公のおぼえ書き(フィクション)が、作中の要所要所に引用されるという二重三重の物語の構造もおもしろい。

わたしのねこメイベル/ジャクリーン・ウィルソン小峰書店

わたしのねこメイベル (おはなしプレゼント)

わたしのねこメイベル (おはなしプレゼント)

老猫メイベルを飼っていた少女ヴェリティ(わたし)。が、メイベルは突然死んでしまう。死をうけいれられないヴェリティは古代エジプトの話をヒントに、メイベルの遺体をミイラにしようとするのだが…。


愛するネコちゃんをミイラにする少女
…一歩間違えると、タブロイド紙の猟奇ネタになりそ〜な話ですが、そこは児童文学だけに"死"というものを考えさせる内容になっている。日本の動物モノはペットロスだ動物愛護だと扇情的なくらいにアマアマでウェットでふやけているのだが、本作は老衰でゲロを吐き(それを詰る主人公)とか遺体が腐ればにおうミもフタもない"死"の現実をユーモアをまじえて見つめる。


さしえの可愛らしさに騙されてはいけないね…。

ムギとヒツジの考古学/藤井純夫/同成社

ムギとヒツジの考古学 (世界の考古学)

ムギとヒツジの考古学 (世界の考古学)

古代オリエントにおけるムギ(農耕)とヒツジ(牧畜)の発生とその発達について。シュメール、バビロニアといった有史以前の話ですから、日本でいうところの縄文・弥生あたりだろうか? チャイルド、ブレイドウッドといった先行の学説を整理しながら手際よくまとめている。先史時代に関心のある人向け。

日本の中世寺院/伊藤正敏吉川弘文館

日本の中世寺院―忘れられた自由都市 (歴史文化ライブラリー)

日本の中世寺院―忘れられた自由都市 (歴史文化ライブラリー)

中世社会において"寺院"は第三の権力であった…のみならず、もっとも自由な空間、第三の世界であったというのが著者の主張。たしかに、こういう文脈ならば公家、幕府はおろか下克上の戦国大名ですら寺院勢力をおそれたという理由もすんなり理解できるし、動乱の中のキーマンとして寺社や僧侶が頻繁に出てくる理由も分かるし、信長の叡山焼討ちや本願寺との闘争も分かるわけで。

離島寒村の構図/渡辺豊和/住まいの図書館出版局

離島寒村の構図―森と海のコスモロジー (住まい学大系)

離島寒村の構図―森と海のコスモロジー (住まい学大系)

アトランティス(笑)
超古代文明(笑)
縄文ロマン(笑)
タイトルで内容を誤解していたので、思いっきりハズレ。

日本人の法意識 (岩波新書)/川島武宜

日本人の法意識 (岩波新書 青版A-43)

日本人の法意識 (岩波新書 青版A-43)

法と意識のズレ、裁判への忌避感情、"お上"意識…日本人に根強く残る「前近代的」な法意識を指摘した名著。こうした"法意識"はすでに過去のものである…と言いたいところだけど、いまだに深層レベルでは残っているのでは?

中世の日記の世界 (日本史リブレット)/尾上陽介/山川出版社

中世の日記の世界 (日本史リブレット)

中世の日記の世界 (日本史リブレット)

ここでの日記とは「男もすなる…」の『土佐日記』とか『紫式部日記』など国語の古文の授業で習う王朝女流文学の和文日記ではなくて、公家や僧侶など男性が漢文でつけていた私的な記録のことである。文学ではなく史学の領域。歴史史料としての「日記」の性格と、その読み方を平易に解説した概説書で、多数の図版で日記本文をビジュアルに見せているので門外漢にも分かりやすい。

林芙美子随筆集 (岩波文庫)/林芙美子

林芙美子随筆集 (岩波文庫)

林芙美子随筆集 (岩波文庫)

今の作家だと、林真理子ぐらいのポジションなのかなぁ(作品じゃなくて、女流作家としての"位置"ね)。だから本編のような日常エッセイで描き出される流行作家としての彼女の"イメージ"もどこまで素かは判断がつきにくい。ざっくばらんに書き流したような文章だから、小説よりは素なのかなぁと思うが。