読書メモ(2009年3月その2)

古代ギリシア史における帝国と都市/中井義明/ミネルヴァ書房

わかりにくいタイトルだが、本書はペルシア、アテナイ、スパルタ、三つの帝国(覇権国家)と、その傘下・影響力下にあった都市国家(ポリス)との国際関係を主軸に、古代ギリシアの国際関係・外交史を考察したもの。


昔も今もヘゲモニー(覇権)を握るものと、その下にあるものとの間には、のっぴきならない駆け引きがあったということか…大変ですなぁ。


ペルシア戦争におけるギリシア諸都市の動向などにも触れ、"ギリシアの自由のための戦い"という古典的なペルシア戦争観に修正を迫る内容。

文房具と旅をしよう/寺村栄次、浅井良子/ブルースインターアクションズ

文房具と旅をしよう

文房具と旅をしよう

文京区にある輸入文具の店「スコス ステーショナリーズ・カフェ」のふたりが、珍しい文房具をさがして旅した欧州五ヶ国の記録…みたいな〜。まあ、文房具「だけ」の本だと期待するとガクッとなるでしょうが、こういうノリの旅行本ってスキなので、これはこれでイイと思うよ(ワタクシ的には…)。

ペルシア帝国 (「知の再発見」双書)/ピエール・ブリアン/創元社

ペルシア帝国 (「知の再発見」双書)

ペルシア帝国 (「知の再発見」双書)

原題は"Darius : Les Perses et L'Empire"となっているように、ダレイオス一世(とその息子クセルクセス一世)の治世…ヘロドトス『歴史』のテーマとなったペルシア戦争の頃ですね…を中心とした構成で、それ以前と以降はフォローされていないのでご注意。前述ヘロドトスなどの古典史料(ギリシア人史料)に大きく依拠しながらも、現地の発掘資料や文書などの最新研究も反映されて、バランスのとれた記述になっているかと思います。しっかし、アケメネス朝を題材にした歴史小説(著者はゴア・ヴィダル!)があるのね…。

文房具を買いに/片岡義男/東京書籍

文房具を買いに

文房具を買いに

やっぱりこの人の場合、ミードのリーガルパッドとか情報カードとかタイコンデローガの鉛筆とかアメリカ物がメインに来るね…。モレスキンとかロディアとかヨーロッパの文房具も取り上げられているけど、高級なもの、お洒落なものよりもむしろチープな名も無き"文具"のはっとする魅力を独特のタッチで、まるでオートバイやクルマのように語ってみせるところが凄いわ…。

王宮炎上―アレクサンドロス大王ペルセポリス/森谷公俊/吉川弘文館

西洋史。ヘレニズム史。アレクサンドロス大王が遠征中、ペルシアの王都ペルセポリスに火を放った事件の謎に焦点をあてたもの。


古典史料の比較・批判分析のみならず、現地の発掘資料も視野に、この事件がどのような意味を持っていたのかという部分にまで踏みこんだよくできた啓蒙書なんだけど、著者独自の視点が見えてこないのは残念(アケメネス朝も視野に入れなきゃならない大王研究が難しいということはよく分かるけど)。

香辛料の民族学(中公新書)/吉田よし子

スパイス(乾物)とハーブ(生物)について。著者は農業技術とか食品化学の研究者の方らしい。主に「食」というわかりやすい切り口から、さまざまな香辛料の効用をわかりやすく解説している。ちょっと残念なのは、構成のせいか、ちょっと読みにくい…ということでしょうかね。

ポルトガル(旅名人ブックス)/田辺雅文(文)、武田和秀(写真)/日経BP

旅名人ブックス33 ポルトガル 第3版

旅名人ブックス33 ポルトガル 第3版

ポルトガル本土+マデイラ・アゾレス諸島。このシリーズはフツーの観光ガイド本よりも深く掘り下げた文章が特徴のハズなんですが、これに関してはおそろしく平凡というか、観光名所をピックアップして書き流しただけのように見受けられるな〜。広く浅くという感じ。豊富な写真だけが救い。

イラン (暮らしがわかるアジア読本)/上岡弘二(編)/河出書房新社

イラン (暮らしがわかるアジア読本)

イラン (暮らしがわかるアジア読本)

ペルセポリスペルシャ絨毯、シルクロード、石油、イスラム革命…イメージと先入観とレッテルで見えにくいイランという国の「現在」を伝えるガイドブック。ハタミ政権ごろの本なので、多少内容的に古くなってしまいましたが、現在もなお有益な本。辛口ながら、現代イランの政治状況、地理・風土、風俗、食、文化、サブカルチャーと多方面をフォローしています。

松本清張と昭和史 (平凡社新書)/保阪正康

『昭和史発掘』と『日本の黒い霧』の解説本・副読本。それ以上でも以下でもない…としか言いようがない。清張論としては中途半端すぎるし、事件に対する著者本人の見方もハッキリしない。タイトルは羊頭狗肉だし誤解を招くので、「『昭和史発掘』と『日本の黒い霧』を読む」とでも改題すればいいと思うんだ、ホント…。

日記の思考―日本中世思考史への序章 (平凡社選書)/龍福義友

日記の思考―日本中世思考史への序章 (平凡社選書)

日記の思考―日本中世思考史への序章 (平凡社選書)

よ〜するに、中世貴族(公家)のメンタリティー分析(著者はこれを"思考史"と呼んでいるけど、アナール学派の"心性史"とどこがどう違うのか?)。


日記がそのテクストとして使われている。日本中世史としてこういうアプローチがアリなのかどうかは(門外漢なので)よく分かりませんが、日記論としてはアリでしょう。ただ、現在の我々とは異なる「世界」に生きていたハズの中世人の意識に、過剰に「自我」や「個性」を読み込もうとするのは…?

番茶と日本人 (歴史文化ライブラリー)/中村羊一郎/吉川弘文館

番茶と日本人 (歴史文化ライブラリー)

番茶と日本人 (歴史文化ライブラリー)

茶道の"茶"ではないもうひとつのお茶"番茶"の視点から日本の茶の文化と歴史を論じる。「日常茶飯のお茶」というと、『暮しのお茶』(小川八重子)という本を思い出す。日本各地に埋もれた"お番茶"を掘り起こして、その魅力を説いたカラフルな入門書だった。こっちはよりアカデミックなのだろうか。もっとも内容は既存の研究をまとめて平易に書き直した程度に思えるが。