読書メモ(2009年6月その2)
ちいさなカフカ/池内紀/みすず書房
- 作者: 池内紀
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2000/01
- メディア: 単行本
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この人の書くカフカはカフカ論特有のもったいぶった深刻さがない。お洒落。面白い。(いい意味で)軽い。この軽さが受けつけない人もいるのだろうが、池内訳のカフカ(岩波の短編集)でイカれてしまった世代としては、この人の語るカフカはすんなりと身体にしみこんでくるという気がする。
フロイトのイタリア―旅・芸術・精神分析/岡田温司/平凡社
- 作者: 岡田温司
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2008/07/01
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「フロイトは、知る人ぞ知る大のイタリア通であった。その生涯で二十数回もイタリアの土を踏んでいる」(本書9頁)。一章、二章はフロイトの書簡を引用、彼のイタリア旅行を描写する。三章はフロイトの著作の中の描写から、彼のイタリアへの強い執着を分析。「フロイトは熱心な古物コレクターであった。また彼は、しばしば無意識を考古学的なメタファーで語り、古代の記憶が地中に眠るローマやポンペイの町になぞらえた」(本書169頁)。四章は美術・考古コレクターとしてのフロイト。そして五章ではフロイトが残した数少ない芸術論であるレオナルド論、ミケランジェロ論が俎上にのせられる。そして最後の六章では視点を変えて、イタリアはフロイト(の学問)をどう見ていたのか、ファシズム政権前夜の世相を絡めつつ、イタリアでの精神分析の受容をまとめる。
…と、こんな内容(フハー)。フロイトとイタリア?…というカップリングの妙に心をひかれて、あと著者の別の本を読んでいたということもあり、読んでみたら見事に正解だった。精神分析学もフロイト学も疎くて、本書がフロイト研究においていかなるポジションをしめるのか分かりませんが、少なくとも美術史、文化史というカテゴリーでくくるなら、これは素晴らしい力作、労作。
翻訳家の書斎/宮脇孝雄/研究社出版
- 作者: 宮脇孝雄
- 出版社/メーカー: 研究社出版
- 発売日: 1998/10
- メディア: 単行本
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ペーパーバック探訪(アルク新書)/宮脇孝雄/アルク
ペーパーバック探訪―英米文化のエッセンス (アルク新書 (2))
- 作者: 宮脇孝雄
- 出版社/メーカー: アルク
- 発売日: 1998/10
- メディア: 新書
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コーヒーテーブル・ブックス/堀部篤史/mille books
コーヒーテーブル・ブックス ビジュアル・ブックの楽しみ方23通り
- 作者: 堀部篤史
- 出版社/メーカー: mille books
- 発売日: 2007/06/30
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フラゴナールの婚約者/ロジェ・グルニエ/みすず書房
- 作者: ロジェグルニエ,Roger Grenier,山田稔
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 1997/11
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彼の著作(未読)に『黒いピエロ』というタイトルがあった思うけど、彼の文学世界を言いあらわしているタイトルだと思う。苦みばしったピエロ、憂鬱なピエロ、哀しげなピエロ…アントワーヌ・ヴァトーの絵を思い出す。
蜘蛛の巣(ハヤカワ・ミステリ文庫)/アガサ・クリスティー/早川書房
蜘蛛の巣 (ハヤカワ・ミステリ文庫 1-58 クリスティー戯曲集 4)
- 作者: アガサ・クリスティー,加藤恭平
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1980/10/01
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アガサ・クリスティー、ノンシリーズのオリジナルミステリードラマ(三幕)。タイトルからおどろおどろしい印象(苦笑)を受けるが、よ〜はもつれてからみあう蜘蛛の糸…ドタバタ劇(殺人があるとはいえ)である。田舎の家、地方の名士、おなじみの道具立てで良質のシチュエーションコメディーを織り上げる。本格ミステリー戯曲(…そんなものあるのかね?)として読むと物足りないかもしれないが、想像で舞台を思い描きながら読むとおもしろい…。
"ああ、わたしたちは何ともつれた
蜘蛛の巣を編んでしまったことか、
最初に人を欺こうとした時に" (本書259頁*1)
フロイトと作られた記憶/フィル・モロン/岩波書店
- 作者: フィルモロン,Phil Mollon,中村裕子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2004/08/26
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永遠の書架にたちて/辻邦生/新潮社
- 作者: 辻邦生
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1990/07
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ヘンな言い方だが"小説家のエッセイ"ということを強く感じる。創作とは何か、小説を書くこととは何か…という問題意識を常に感じる。たとえ自作の話でなくても、"どう書くのか"ということに常に帰着する。小説家だから、それが当たり前だろ…ということかもしれないが、(戦後の)日本の作家はこういう大マジメな文学論・創作論をあまり書かなくなったような気がするのでな〜。
*1:ウォルター・スコット「マーミアン」からの引用。